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めまいの原因に関係しているのは、脳や耳だけではありません。意外に見落とされているのが「首」の問題です。
めまいに悩んでいる人々の八割には、首の凝りや痛みがあります。「肩よりも首」というのが特徴で、「めまいが起こる前に首が痛くなった」「首の付け根から後頭部が重く感じた」と話す人が多い。こうした首の自覚症状が強いタイプは、「頸性(けいせい)めまい」とでも呼ぶべきだろうと私は考えています。
首は約千二百―千四百グラムもある脳を支え、全身と結んでいる重要な“連絡路”です。体の末端と脳をつなぐ重要な血管や神経が集中しているだけでなく、脳や脊髄(せきずい)を守る体液循環の“関所”のような役割も果たしており、米国には「めまいの改善には、首の凝りの治療が極めて有効だ」とする研究報告もあります。
ところが、こうした「頸性めまい」の考え方は、治療現場のスタンダードにはなっていないのが現状です。国際的に有力なドイツの研究者が「本当にそんなものが存在するのか」と疑問視している事情もあり、日本でも軽視されがちです。
例えば、「自分のめまいは首に関係がありそうだ」と思って診察を受けても、医師は「首の凝りは肩凝りと同じ。目の疲れが原因でしょう」。ストレス性、自律神経失調症などと診断されたり、女性の場合は「更年期障害」と言われるケースも多いようです。
患者さんの多くが訴える首の症状に、なぜ注意を向けないのでしょうか。理解に苦しむところです。
一つ言えるのは、首という器官は、脳外科や整形外科、内科など、さまざまな診療科が治療に関与する「境界領域」だということです。それぞれの分野の医師たちが遠慮し合って、治療に手を出しにくい“盲点”となってきたのかもしれません。
原因や仕組みが複雑なめまい治療に取り組む上で、首との関連性に目を背けるわけにはいきません。「首の重要性」を見直すことは、めまいに限らず、健康医学に残された大きな課題の一つだと思っています。