はっきりした全国統計はありませんが、一般に女性のほうが男性よりめまいが多いとされています。
私どもの成績でも人口動態と比較して、全年齢を通じて女性のほうが患者数が多い結果です。その傾向は、高齢になるほどはっきりしているようです。
このような原因は何でしょうか? そのことの原因を考えることは、女性のみならずめまい全体の原因を追及する上でのなんらかの手掛かりとなる可能性があります。 皮肉家は、女性のほうがちょっとしたことに神経質になるとか、おおげさだとか言うかも知れませんが、現代の女性は、けっして男性よりも弱いとは思えません。あるいは、危機に遭遇した場合、女性のほうがしっかりと対応するように思えます。ストレスがめまいの原因としたら、男性の方が多いはずと考えるのが一般的で、ストレスの面からその原因を説明することはできません。 女性特有の何かを見つめ直すことが重要でしょう。
1. ホルモンの差?
この問題は無視できません。たしかに女性の患者さんには、生理に関連してめまい発作に悩まされている人もいます。また、更年期障害とする見方もあります。 ホルモンの差がめまいのいくつかの原因のひとつとしてありうるでしょうが、基本的な原因ではないと考えています。何故なら、もしそうであったら、めまいの男女差はもっと大きくなるはずです。
2. 生活習慣の差?
女性の生活スタイルを男性と比較した場合思いつくのは、ハイヒール、化粧、長い髪、美容院、家事などでしょうが、どれをとっても原因としての比重は重くないように思えます。同じように、酒、タバコの多い少ないでも論じられないでしょう。ちなみに、平成20年度での喫煙率調査では、男性39.5%、女性12.9%です。飲酒についても男性72%、女性30%となっています。生活習慣の面からも、女性に多い原因は見当たりません。高血圧についても同様の傾向です。 いわゆる生活習慣病はめまいの原因に当てはまらないでしょう。
【女性のめまい治療のポイント】
A貧血、子宮筋腫、子宮内膜症などを見落とさないように注意する。
B女性に多い甲状腺の病気やアレルギー性疾患の有無にも目を向けておく。
Cこころの病い、ストレス、自律神経失調症などと決めてかからない。
D育児や家事などでくび周りに負担をかけるような日常生活動作に細かく注意する。
E腰痛合併者は、水泳や、鍼灸、マッサージなどを含めた治療を予定しておく。
Fその他:妊娠中、授乳中、不妊治療中の場合は、薬剤治療に注意する。
3. 重要な身体的な差
患者さんの話をいろいろと聞いていて、もっとも女性が男性よりも大きく違う点は、腰痛や股関節の病気ではないかと考えさせられます。きっちりした統計をとった訳ではありません。
女性が腰を痛める原因は?
そのひとつは、骨がもろくなり易い骨粗鬆症があり、さらに関係しうる動作として出産があります。出産によってくび、腰、股関節を痛める原因になるはずです。
たとえば、39歳のある女性のめまい患者さんのことです。
6年前にグルグルまわるめまいがあり、その後しばらくは大きな発作はなかったようですが、2年前からまた同じような発作を発症して来院しました。患者さんと相談しながら2年前と6年前とに共通した原因がないものかと考えました。診察に2歳ぐらいの子供さんを連れてきていまして、抱きかかえてあやしていました。その2歳の子供さんの出産とめまい発病の前後関係を尋ねてみましたら、出産の後からだとの返事です。「それでは、6年前は?」と尋ねましたら、一瞬思い出しながら、「ああ、それも出産後」とのことです。
このやりとりは、女性のめまいを考える上で、出産という生活歴が意味のあることであろうと痛感させられたきっかけです。出産のいきみにともなう女性への影響は、むち打ち症以上の衝撃を首にも腰にも与えているからです。さらに、出産後に続く育児に関連した足腰への負担、睡眠障害などがめまいの直接的あるいは間接的な原因あるいは素質を形成していったと考えられます。
要約
このように考えますと、めまいの原因としての背すじ (躯幹)や骨の異常が関係しているとする私どもの理論に基づいたくびこりに対する治療が有効となることを ご理解頂けるでしょう。