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既にお話ししたように、めまいの発症には脳や耳、目、首などの器官がかかわっていると考えられ、一つだけに原因を絞り込むのは無理があります。「そんなに単純ではない」とも言えますし、「すべてが微妙に絡み合っている」という言い方もできるでしょう。
めまいを「事件」とした場合、犯人は果たして単独犯か複数犯か。実際に手を下した実行犯は誰か。犯行を計画し、黒幕として指示した主犯は誰なのか。ひょっとしたら、何人かの犯人が等しく責任を負う「共同正犯」と呼ぶべき状態なのかもしれません。
発症のメカニズムは、野球にも例えられます。こうした考え方を仮に「ベースボール理論」と呼ぶことにします。
野球では、ホームランは別として、ヒット一本だけでは点は入りません。シングルヒットが四本続いたり、シングルヒットに二塁打が続くなど、とにかく打者が次々に塁に出ないと、最終的に得点にはなりません。
そこで「白質病変」などの脳の小さな異変、耳の病気、首の古い外傷の三つを「満塁の走者」と想定してみます。めまいという「得点」につなげるには、さらに何が必要でしょうか。タイムリーヒットか押し出しの四死球か、それとも相手のエラーか・・・。
まず考えられるのは体の動作です。首を回す、寝床から起きる、歩くといった極めて日常的な動作でも、発症の直接的な引き金になり得ます。テレビやパソコンの画面を注視するのも同様です。
得点につながる一連のベースボール的展開の基本には、「めまいを生じるためには、その前段階となる準備状態が必要」という考え方があります。睡眠不足や疲れも“犯人グループ”の仲間です。一つ一つの事件は小さくても、その積み重ねが背景にあれば、重大事件に発展する恐れは常にあるのです。
こうした“導火線”に着火する“何か”をきっかけに、発症のシステムが作動してエネルギーの爆発が起こり、「脳内地震」が発生すると考えられます。
ただし「そもそものエネルギーはどこから来るのか」という謎は、依然として残ります。