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多くの家庭医学書では「めまいの原因として、ストレスなどの精神的な要因が大きな位置を占める」と書かれています。でも本当にそうなら、世論やマスコミの批判に日々耐えている医師や政治家は、めまいの患者ばかりになるはず。おかしな話だと思いませんか?
めまいで受診した医師に「心の病気」と言われ、心療内科や心理カウンセリングに通っている患者さんは、確かに少なくありません。でも心の病気は「自律神経失調症」「更年期障害」と同様に、検査でハッキリした異常が出ない場合に使われがちな診断名でもあります。原因が分からない医師が、苦し紛れに使っている恐れがないとも限りません。
目に見えない心を持ち出されると、患者さんの側も何となく納得してしまうかもしれませが、「そんなはずはない」「深刻な悩みなどないのに・・・」と疑問を感じる人も大勢います。「心の病気と言われたこと自体が一番ショック。心が痛い。」と嘆く人もいます。
もっとも、心とめまいが無関係だと言っているわけではありません。医師が心の側面を考慮し、患者さんの症状を注意深く観察するのは大切なこと。ここで言いたいのは、精神的、心理的な要因が、めまいを引き起こす直接の元凶とは考えられないということです。
逆に言えば、長期間めまいに悩み、回復の兆しも見えなければ、憂うつな気分に落ち込んでいくのはあたり前です。めまいが起こる以前から抑うつ的な傾向があった人なら、発症を機に状態が悪くなる可能性も十分に考えられます。
最近はがんや大けがの治療でも、メンタルな側面が重視される時代です。どんな病気の治療でも精神的、心理的な視点は欠かせません。ただ残念なことですが、今の医療現場は、十分な検査や診察をせず、めまいを心の病気と決めつける医師がいないとは言い切れないのが実情です。
「脳内地震」の迷路は複雑に入り組んでいます。でも前進することを放棄し、安易な診断に“逃げる”のでは、何も解決しません。今は手探りでも、ねばり強く試行錯誤を重ねれば、いつかは心、いや脳に潜む“震源地”にたどり着くはずです。