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「めまいは近年増加している」との記載が、家庭医学書などで多く見られます。「国民病」「現代病」とも言われ、生活習慣病、ストレスなどと関連づける説明が多いようです。いずれも、どうもスッキリしません。
そもそも生活習慣病とは、高血圧や肥満、糖尿病などが主な危険因子となり、動脈硬化などを伴って起きる脳、心臓の「血管病」の総称です。しかし、めまいが高血圧や高脂血症などを合併するケースが少ないことは海外で報告されており、めまいの原因を血管病で説明してしまうのは無理があります。
めまいを考えるには食事や運動、睡眠など、誰にでも当てはまる生活の“習慣”よりも、時代とともに絶えず変化し、個人差も大きい“行動様式”や“環境”にもっと目を向けるべきではないでしょうか。
交通機関の発達で運動不足が加速し、パソコンの普及で目が疲れ、姿勢が悪くなるのは、時代の必然とも考えられます。携帯電話やヘッドホンを片時も手放せない若者たちは、耳の疲労が慢性化しているはずです。
さらには、市場原理で勝ち組、負け組を選別していく競争社会の在り方も見直されるべきでしょう。常に仕事と隣り合わせの切迫感が生活リズムをゆがめ、全身の神経バランスを崩し、人間が丸い地球で転ばずに暮らす“能力”を脅かしていると言えると思います。
環境面で言えば、地球温暖化や電磁波、内分泌かく乱物質(環境ホルモン)なども、健康には脅威です。抗生物質が効かない耐性菌が増加したり、遺伝子治療の進歩で出産をめぐる倫理問題が発生するなど、医療技術の発達をあざ笑うような皮肉な事態も起きています。
それぞれは日常的な事柄がジワジワと増殖し、複合汚染のように現代人をむしばんでいる気がしてなりません。その結果として「脳内地震」の予備軍が増えたという説明なら、受け入れやすいのではないでしょうか。
そして問題の解決には、めまいの本質に迫る医学の進歩、患者さんの生活改善の努力に加え、不健康な社会の修正に向けた国家的な認識が不可欠だと思うのです。